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「“これも自分と認めざるをえない”」

contents

"これも自分と認めざるをえない"

快適な生活や防犯のため、指紋や静脈といった個人の「属性」が独り歩きしそうな現代社会をテーマに表現研究者の佐藤雅彦がディレクション。インタラクティブな映像や最先端テクノロジーによる体験型の作品を中心に、デザインの前提として当然視される「自分らしさ」や「個性」について、来場者とともに新たな視点を模索した。
会期 2010年7月16日(金) - 11月3日(火)

ディレクターズ・メッセージ

属性に無頓着な自分、それに執着する社会。

この展覧会のテーマは、「属性」という、日常ではあまり使われない言葉です。「属性」の意味を辞書に問えば、最初に、

【属性】 ぞくせい  1. その本体が備えている固有の性質・特徴。(『大辞林』より)

という簡明な説明が与えられます。例えば、あなたの身体的属性には、身長・体重・皮膚や髪の色・血液型・性別・年齢・体躯・顔つき・声など、限りない項目が挙げられるでしょう。また、社会的属性には、名前を始めとして国籍・住所・職業・所属・地位・人間関係などが挙げられます。その他、癖や持ち物なども、あなたの属性に含まれます。

あなたより、あなたのことを知っている社会

静脈認証や虹彩認証などの最新の生体認証技術は、従来、判別が不可能だった身体的属性をも正確に取得することを可能にしました。一方、人は相変わらず、普通の状態では、自分の姿や声さえも客観的に捉えることはできません。社会の方は、その取得環境と保存環境を日に日に整えつつあり、近い将来、場面によっては、社会の方があなたより、あなたの事を知っているという状況も生まれかねません。そう考えると、取得した属性データをうまく使えば、個人個人に細かく対応したサービスや堅固なセキュリティの確保という方向も見えてきますが、悪用すれば、過度な個人の監視や犯罪という方向も容易に想像できます。

この展覧会では、現在、あなたの属性が、あなたの知らないうちに、社会にどのように扱われているのか、さらには、あなたも意識していない、あなたのどんな属性がこれから社会に認識されていくのかを、作品を通じて知ることができます。そして、単なる技術展示にとどまらず、作品化することによって、属性の未来を可能性だけでなく危険性も含めて鑑賞してもらうことを目的のひとつとしています。

あなたの属性は、本当にあなたのものか。

さらに、辞書には「属性」の意味として、興味深い項目が次のように示されています。

【属性】 ぞくせい  2. それを否定すれば事物の存在そのものも否定されてしまうような性質。(『大辞林』より)

例えば、自分の紹介に使う名刺も、その人にとっては名前や所属が載っている属性のひとつです。もし、自分の名刺を目の前で折られたり破られたりしたら、どんな気持ちになるでしょうか。まるで自分を否定されたかのように感じ、怒りさえ生まれてくるはずです。また、何かの間違いで、自分の籍や名前が無くなっていたとしたら、自分の存在が無いかのように社会は扱うはずですし、自分自身も自分の存在について希薄さを感じたり、逆にある種の自由さすら感じることが予想されます。

この展覧会では、自分の属性である声・指紋・筆跡・鏡像・視線・記憶などをモチーフにした作品を展示しています。そこでは、この2番目の意味での属性が、私たちが今まで得ることができなかった感情を引き起こします。さらには、自分にとって、自分とはわざわざ気にするような重要な存在ではなかったという事柄や、自分をとりまく世界と自分との関係も分かってきます。

この展覧会のテーマである「属性」と作品群を通じて、人間と社会の未来がどうなるのか、人間と世界の在り方は本来どうであるのかを来場者ひとりひとりに感じ取ってもらい、そして多くの疑問を持ち帰ってもらい、その疑問をかざしつつ、これからの自分と社会を見つめていってほしいと、私は考えています。

(補記)
本展覧会はあなたの身長や指紋や筆跡などの属性が展示作品に取り込まれ、作品化されることによって生まれる表象を鑑賞していただきたいために、そのような個人情報をその場で提供していただくことになります。(もちろん、希望者に限りますが)
しかし、この展覧会の『属性の今を考えることによって、人間の未来・社会の未来を考える』という主旨に基づき、敢えてそのような展示を行っていることを是非ご理解いただきたく思います。

佐藤雅彦

開催概要

主催
21_21 DESIGN SIGHT、財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援
文化庁、経済産業省、東京都、港区
助成
財団法人 花王芸術・科学財団
協力
株式会社エーアイ、法科学鑑定研究所、株式会社アールアンテル、キヤノンマーケティングジャパン株式会社、ギャラリー小柳、函館市教育委員会、Iris ID Systems Inc.、KDDI株式会社、日本電気株式会社、日本電信電話株式会社、オムロン株式会社、パナソニック電工株式会社、独立行政法人 理化学研究所、日本サムスン株式会社、株式会社セキュリティゲート・ジャパン、シュウゴアーツ、Take Ninagawa、株式会社タニタ、東京藝術大学、東芝ソリューション株式会社
展覧会ディレクター
佐藤雅彦
技術監修
桐山孝司
照明
マックスレイ株式会社
参加作家
安藤英由樹、ユーフラテス、深谷崇史、藤本直明、譜久原尚樹、アントニ―・ゴームリー、細谷宏昌、入來篤史、桐山孝司、緒方壽人、大竹伸朗、齋藤達也、岡田憲一、田村友一郎、アーリ・フェルスラウス、エリー・アウテンブルーク、渡邊淳司、アレクサ・ライト、安本匡佑、米田知子