ディレクター

ディレクターズ・メッセージ

解剖は通常、人体や動物に対する行為ですが、ここでは人工物を扱います。それではなぜ、人工物に対して「解剖」なのでしょうか。20世紀、機械生産技術の進歩によって大量生産品が世界中にあふれるとともに、温暖化やゴミなど環境への対応が、どこの国や地域でも社会的に大きな課題になりました。しかし、社会のインフラと言っても過言ではない大量生産品は、私達の生活にはもはや必需品でもあります。近代になって急激に増加している世界の人口を支えていくためには、効率良く、環境にできるだけ負荷を掛けず、大量生産品を流通させる必要があることを、今や否定はできないでしょう。とかく環境問題となると、煙突から煙をあげる工場や、多くのゴミを出す大量生産品が問題視されがちですが、私達はその裏側で何が起こっているのかを、実はほとんど知りません。

商品開発や大量生産品のパッケージデザインを多く手掛けるようになって、ある時、デザインの視点でものを外側から内側に向かって解剖するというプロジェクトを思いつきました。デザインという言葉には、形や色といった目に見える視覚的印象が強くありますが、もともと「設計」という重要な意味が含まれます。例えば食品の場合、味や口の中での感触も設計されているのであれば、それもデザインなのではないだろうか。ものを解剖するというイメージを頭に描くと、このような疑問が次々に湧いてきました。デザインを、ものを見るための方法としてとらえること。つまりものや環境を理解するために、デザインをメスにすることができるのではないだろうかと思ったのです。全ての物事に何かしらのデザインが内在するのであれば、必ずデザインを頼りに解剖ができるはずなのです。

ものづくりの現場がブラックボックス化して、生活者にとって商品が急激に記号化されていくと、その裏側で何が起きているのかが分からなくなります。ものづくりの裏側を知らないから、大切に使おうという気持ちや愛着も生まれないまま、まだまだ使用できるものを捨ててしまう。捨てたものが、その後どう処理されているのかも分かりません。来し方行く末を何も知らされないのが現代社会なのです。そして、何よりも経済だけが豊かさの指標になってしまっているがゆえに、デザインが経済の道具として理解されることが多くあるばかりか、つい経済と文化を分けてとらえがちです。しかし、実はデザインには経済と文化をうまく繋ぐ力があるのです。

この展覧会では、ごく日常生活に馴染んでいるものを、デザインの視点で解剖し、展示解説いたします。「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」が、解剖的視点でものを見る目を少しでも養う手助けになれば幸いです。

佐藤 卓

プロフィール

佐藤 卓 Taku Satoh

1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」などの商品デザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高校野球選手権大会」等のシンボルマークを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」の総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務めるなど多岐にわたって活動。著書に、「クジラは潮を吹いていた。」(DNPアートコミュニケーションズ)や「JOMONESE」(美術出版社)、「真穴みかん」写真集(平凡社)など。

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