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青野尚子による「土木展」Web連載
第5回 本展企画協力 内藤 廣インタビュー

「土木展」の最後に、それまでとは雰囲気の違うシリアスな映像が流れています。この「GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』」は総合的な空間デザインを考える「GSデザイン会議」がつくったもの。上映時間は1時間ほどになりますが、会場では最後まで見入っていく人も少なくありません。このGSデザイン会議の共同代表の一人であり、「土木展」の企画協力者でもある建築家の内藤 廣に聞きました。


「GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』」より

映像を制作した「GS(グラウンドスケープ)デザイン会議」は、「景観法」が施行(2004年)されたことなどを機に、土木設計家の篠原 修先生たちと2005年に立ち上げたネットワークで、シンポジウムなどの活動を行っています。美しい景観をつくるには建築や土木など、個別に設計するのではなく、分野を横断してトータルにデザインすることが大切だとの考えからでした。
このGSデザイン会議では3年前、みんなで三陸を見た方が良い、ということで参加者を募り、年一回視察する機会をつくっています。私はそれまでも復興のためのさまざまな委員会に加わり、現地を訪れていましたが、より多角的な視点から継続的に復興について考えていかなければと思ったのです。土木展で展示されている「GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』」は、それがきっかけになって昨年制作されたものです。

復興をお手伝いする中でいろいろな問題点が見えてきました。ひとつは「安全」に対する国と私たちの考え方の違いです。ある委員会でご一緒した津波工学の専門家、首藤伸夫先生は「津波は個別的なものであり、同じ津波は二度と来ない。津波の被害を完全に食い止めることは不可能だ」という意見です。だから、本来は逃げることを第一に考えなくてはならないはずです。ところが役所はさまざまなシミュレーションデータを示して建前上「安全だ」と言い切らないと、都市計画法などの法を適用することができない。これは大いなる矛盾です。
防潮堤で絶対安全を目指すとすると、たとえば陸前髙田には高さ21.5メートルの津波が襲来しましたから、21メートル以上の防潮堤をつくらなくてはならなくなる。しかし百年に一度の津波が来るまで、つまり百年後までそのメンテナンスを続けることは可能でしょうか。それは不可能です。それよりもより発生頻度の高い津波を防ぐほうが現実的でしょう。陸前高田では、高さ12.5メートルの防潮堤が完成しつつあります。でも人は忘れやすい。その高さの意味を数世代にわたって伝えていく必要があります。
また、地元の意見をまとめることも重要ですが、住民の方の思いもさまざまですし、時間とともに変わります。当初はどの自治体も東日本大震災の津波と同じ高さの防潮堤を希望していました。でも1、2年経つとこんなに高くなくてもいい、大きすぎて不経済だ、といった声も出てきます。しかし、そのときには計画が進行していて変えられない、といったことも起きるのです。
一方で、もとからコミュニティの結束が強いところでは比較的早く結論が出ました。実際に、早々に「防潮堤はいらない」と明快に決めた集落では防潮堤をつくっていません。


「GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』」より

こういった状況を見ると災害が起こってからではなく、「今から考えなくてはならない」と強く思います。もし南海トラフ地震が起きた場合、被害や復興にかかる費用は東日本大震災の15倍になるとの試算もあります。東日本大震災と同じやり方で復興できるとは限りませんし、答えはすぐには見つからないでしょう。でも災害が起きてからでは遅いのです。
そのためには土木・都市計画・建築の各分野を横断することが重要です。今、この3分野は互いに分断されていて、3つを理解できる人が本当に少ない。建築家も土木や都市計画について学ぶ、というように相互に理解し合う努力が欠けています。とはいえ、改善の兆しはあります。私が教えている東京大学では、着任した2001年当時は社会基盤工学科(旧土木工学科、現在の社会基盤学科)と建築学科は口もきかない、といった有様でしたが、今では共同でプロジェクトを行うまでになっています。そこで学んだ若者が社会に出て中枢を担うころ、つまり15年ぐらい先にはもっと状況はよくなっているのではないかと期待しています。

こうしていろいろな取り組みをしていますが、物理的な破壊が起こっても文化の厚みがあればかならず復興できると私は信じています。歴史を見れば、文化は文明の復元力の源なのです。最終的な文化とは言語のことだと思っています。日本人であれば日本語で正しく会話ができるか、この言語で深い思考をしているか、ということです。災害が起きたときのことを今から考えること、文化の厚みを生み出す"言語"を大切にすること、土木や建築、都市計画の間の相互理解を図ることが"その日"に備える最善の策になると思っています。

ないとうひろし:
建築家・東京大学名誉教授。1950年生まれ。1976年早稲田大学大学院修士課程修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(スペイン・マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年内藤廣建築設計事務所を設立。2001年から東京大学大学院社会基盤学専攻教授、同大学副学長を歴任後、2011年に退官。2007-2009年度には、グッドデザイン賞審査委員長を務める。主な建築作品に、海の博物館(1992)、安曇野ちひろ美術館(1997)、牧野富太郎記念館(1999)、島根県芸術文化センター(2005)、日向市駅(2008)、高知駅(2009)、虎屋京都店(2009)、旭川駅(2011)、九州大学椎木講堂(2014)、静岡県草薙総合運動場体育館(2015)、安曇野市庁舎(2015)などがある。

「おやこで!どぼく」開催レポート

2016年8月23日、企画展「土木展」に関連して「おやこで!どぼく」を開催しました。この日は夏休みのこどもたちのために特別に開館し、作品の楽しみ方と土木の役割を説明するカードや親子で楽しめるツアーで、鑑賞をサポートしました。

「おやこで!どぼく」は、14名の有志の学生たちが21_21 DESIGN SIGHTとともに企画、運営を行ないました。建築、プロダクト、ファッション、テキスタイル、インテリア、システムデザイン、美術史など、様々な研究分野の学生たちが力を合わせ、土木をより多くのこどもに知ってもらおうという強い気持ちを抱いて取り組みました。

2016年7月、第1回のミーティングでは、21_21 DESIGN SIGHTスタッフが学生たちに、展覧会のコンセプトや内容、展覧会ディレクター 西村 浩の思いを説明しました。
学生たちは本展を「土木の世界への入り口」ととらえ、「私たちの気づかないところで、日常生活を支え、守ってくれる身近な土木」「土木の美しさ、楽しさ」をどうしたらこどもたちに伝えられるのか、考え始めました。この日を出発点に、学生たちは定期的に打ち合わせをし、アイデアを更新しながら企画を進行していきました。

8月、イベントの概要が決まりました。用意する仕掛けは2つ、当日配布する小さなカードと、こども向けの解説ツアーです。
カードは全部で11種類、1枚につき1作品を紹介します。表にはその作品が取り上げている土木の「役割」、裏にはイラストとともに作品の「楽しみ方」が書かれています。カードを集めながら作品を巡って楽しめる仕組みを考えました。
ツアーは、小学2年生以下のこどもたちと一緒に会場内の「土木のお友達」に会いに行く「はじめまして」ツアーと、小学3年生以上のこどもたちにクイズを出題しながらより深く解説する「もっともっと」ツアーの2種類を用意しました。

いよいよ当日、学生たちは緊張しながらこどもたちを迎えます。会場内は、大勢のこどもたちの楽しそうな声や、カードを集めにいく小さな姿でいっぱいになりました。

やがてツアーの時間になり、こどもたちは年齢ごとに2つのグループに分かれて会場へ出発しました。「はじめまして」ツアーでは、ギャラリー1で演奏中の「土木オーケストラ」、一人ひとりは小さいけれど力を合わせて頼もしい橋になる「橋兄弟」、私たちのために水をためてくれている「ダムくん」を紹介しながら、実際に体験型作品を楽しみます。同時に行なわれた「もっともっと」ツアーでは、こどもたちと一緒にお父さんお母さんもクイズに参戦して盛り上がりました。

1日を終えて、最後に学生たちは感想を交換します。「こどもたちが熱心に話をきいてくれる姿に、伝えることの難しさと楽しさを学ぶことができた」という意見があがりました。「こどもたちに土木の魅力を伝える」という当初の目標を達成しただけでなく、学生たち自身もこどもたちの目線を通じて、改めて土木の魅力を実感する1日となりました。

【展覧会紹介】金沢21世紀美術館「工芸とデザインの境目」

国内の美術館で開催されるデザインに関連する展覧会をご紹介します。

金沢21世紀美術館「工芸とデザインの境目」

2016年10月8日(土)- 2017年3月20日(月)

21_21 DESIGN SIGHT ディレクターの一人でもある深澤直人が監修を務める展覧会「工芸とデザインの境目」が、2016年10月8日より金沢21世紀美術館で開催されます。

工芸とデザインはものづくりという点では同じですが、両者は異なるジャンルとして区別されています。しかしながら、それらをつぶさに観察するまでもなく、両者の間には「デザイン的工芸」また「工芸的デザイン」とも呼べる作品あるいは製品があるように思われます。
本展覧会では、「プロセスと素材」「手と機械」「かたち」「さび(経年変化)」といった観点から工芸とデザインを見つめ直すことによって、それらの曖昧模糊とした境目を浮き彫りにし、最先端技術の発達などによって多様化が進む両者の新たな地平を考察します。

>>金沢21世紀美術館ウェブサイト

21_21 DESIGN SIGHT企画展 in 台北「単位展 — あれくらい それくらい どれくらい?」関連トークレポート

台湾・台北の松山文創園區 五號倉庫で開催中の21_21 DESIGN SIGHT企画展 in 台北「単位展 — あれくらい それくらい どれくらい?」に関連して、2016年8月20日、中村至男と鈴野浩一によるトークが開催されました。

本展では、2015年に21_21 DESIGN SIGHTで開催した「単位展」に引き続き、中村は展覧会グラフィックを、鈴野は会場構成監修を担当しました。
トークの前半は、二人がこれまでに手がけてきた仕事をそれぞれ写真や映像とともに紹介。その後、東京と台北の「単位展」について語りました。

まずは中村が、企業の社内デザイナーとして働いていた当時にデザインした自宅の引越しを知らせるポストカードに始まり、佐藤雅彦と協働したゲームソフトや「勝手に広告」シリーズ、近年出版された絵本まで様々な仕事を説明。
つづいて鈴野は、禿 真哉とともにトラフ建築設計事務所を設立するきっかけとなったホテル「クラスカ」の客室や、ひとつづきの空間が屋根の高低でゆるやかに区切られた住居、さらには「空気の器」や結婚指輪までを紹介しました。
二人の、自身の肩書きから想像される枠を超えた幅広い活動と、その根底に通じる独特の発想に、会場からは驚きの声があがりました。

トークの後半では、「単位展」におけるそれぞれの仕事を解説しました。途中、本展のメインビジュアル完成に至るまでに生まれた別のデザイン案も紹介するなど、企画秘話も。
鈴野は、展覧会の構成や展示作品が確定する前に完成した中村によるメインビジュアルが、会場構成や什器デザインのアイディアに繋がったといいます。企画チームのメンバーが、自身の担当を超えてつくりあげた本展ならではのエピソードが語られました。

21_21 DESIGN SIGHT企画展 in 台北「単位展 — あれくらい それくらい どれくらい?」は、2015年の東京での「単位展」展示作品に、台湾の企業や作家による作品も加わり再構成されています。
9月16日までの会期中、より多くの人々が本展を訪れて新しいデザインの視点を持ち帰ってくれたら、という二人のメッセージで、トークは締めくくられました。

Photo courtesy of FuBon Art Foundation

「つんでみる!アーチ橋ワークショップ」を開催

2016年8月27日、建築設計事務所の403architecture [dajiba]による「つんでみる!アーチ橋ワークショップ」を開催しました。
このワークショップでは、403architecture [dajiba]が「土木展」に出展している作品「ライト・アーチ・ボリューム」のミニチュアを工作し、古くから利用され橋の仕組みの基礎として知られるアーチの構造をより身近に体験します。

まずはじめに、403architecture [dajiba]が、アーチ橋の基本的な構造を解説します。平らな橋とくらべて、アーチ橋がどのような特徴を持っているのか学んだら、さっそく工作に取り掛かります。最初は、橋のパーツの展開図に絵をつけるところから。組み立てた時どことどこがつながるのか、橋の表面になるのはどの部分か、考えながら思い思いの絵を描いていきます。

次に、展開図の線に沿って、パーツを切り抜いていきます。このアーチ橋に必要なパーツは全部で7つ。組み立てた時に安定するよう、線から逸れないように丁寧に切ります。

パーツが切り出せたら、今度は点線に沿って紙を折り、キューブ状にしていきます。立体の糊づけが難しく、はじめは苦戦した人たちも、だんだんコツを掴んで次々とパーツが出来ていきます。

すべてのパーツが出来上がったら、いよいよ橋の組み立てです。展示作品「ライト・アーチ・ボリューム」と同様に、端に固定した「基礎」に向かって一列に並べたパーツを押し寄せると、みごとにアーチ状に立ち上がりました。出来上がった橋の上にいろいろな文房具を置いて強度を試してみたり、絵柄がきれいに並ぶようパーツの順番を入れ替えてみたり。自分でデザインした橋を、思い思いに楽しみました。

毎日なにげなく渡っている橋も、自分でつくってみると、普段はみることのない角度から観察することができます。私たちの日常にあたりまえのように存在する「土木」を、改めて意識する機会となりました。

「土木展」企画・制作レポート
Vol.4 ゴッタルドベーストンネル見学

開催中の企画展「土木展」は、生活環境を整えながら自然や土地の歴史と調和する土木のデザインについて考える展覧会です。
本展に向けて、実際の「土木」を訪れたり、自らの手で「土木」のスケールを体感したりしながらすすめられたリサーチの様子を一部ご紹介します。

2016年6月に開通したスイスのゴッタルドベーストンネル。スイス大使館の協力のもと、「土木展」展覧会ディレクターの西村 浩と21_21 DESIGN SIGHTスタッフが本展リサーチのために現地を訪れ、AlpTransit Gotthard社の広報 マウラスさんに案内を受けながら、見学しました。

ゴッタルドベーストンネルは、スイスの美しい山脈を通り抜け、鉄道が走るトンネルとして世界最長の57kmを誇ります。開通前は、標高1km以上を登って荷物を運んでいましたが、ゴッタルドベーストンネルは標高差がなだらかであるため、より少ないエネルギーで多くの荷物を運べるようになりました。

訪問したのは開通前の4月でしたが、すでに見学コースは完成していて、多くの現地の学生が訪れていました。
鉄道が通る本線を掘るために、材料を運んだり従業員が往来していたトンネルを、見学用のトンネルとして活用しています。足元には、施工中に使われていた線路の跡がありました。現在は、見学用トンネルとなったので埋められています。

トンネルを掘っていた当時の迫力ある写真や、構造を解説するパネル、本線の実物大の再現などの展示を通って見学コースを進むと、コースの最終地点では、厚いガラスの向こうに鉄道が通る本線を見ることができます。

ゴッタルドベーストンネルでは、このような見学コースを建設当初から計画していたといいます。「土木を身近に感じて欲しい」と本展の準備を進めていく中で、日本ではあまり体験したことのないトンネル見学に、驚きに近い感動を覚えました。

エルストフェルト駅近くにはインフォメーションセンターがあり、歴史的背景やトンネルを掘るシールドや重機のミニチュアなどの展示あり、更に詳しく知ることができます。その中で、地質断面図の展示と実際の地質(石や土)の展示がありました。「地質が柔らかいと崩れてきて掘るのが大変でした」という解説に、改めて土木の技術力と壮大さを感じました。

この展示を見て、西村は「トンネルを掘る、という行為ひとつとっても地質の調査から始まり緻密で長い時間をかけて完成するのが土木。そして、豊かな自然と対峙するのが土木」と改めて感じたそうです。そして、その思いが、トンネル地質断面図の展示作品「青函トンネルの断面図」、「ゴッタルドベーストンネルの断面図」へとつながっていきました。

21_21 DESIGN SIGHT 企画スタッフ

親子で楽しむ「土木展」

開催中の企画展「土木展」は、私たちの快適な日常生活に必要不可欠でありながら、その存在を実感される機会の少ない「土木」に焦点を当てた展覧会です。

展覧会ディレクター 西村 浩は「土木への"他人事"感を払拭し、自分のことだと思ってもらうには、こどもの頃から考えることを習慣にしてもらわなくては」と言います。
本展では、土木の行為を体験する参加型作品や、親子で楽しめるオリジナルグッズなどを通じて、こどもたちにも「土木」を楽しく、わかりやすく伝えています。

さらに8月23日は「おやこで!どぼく」と題し、通常火曜日は休館のところ、夏休みのこどもたちのために特別に開館。中学生以下のお子様をお連れの保護者の方は、入場料500円でご入場いただけます。その他の方も通常料金でご入場いただけます。

当日は、有志の学生たちが、もっと土木に詳しくなれるワークシートや、親子で楽しめるギャラリーツアーを用意してお待ちしています。ギャラリーツアーは、11:00と14:00の2回開催します。事前予約は不要ですので、親子で、大人同士で、お気軽にご参加ください。

また同日、東京ミッドタウン ガレリア3階のサントリー美術館では、「まるごといちにち こどもびじゅつかん!」を開催しています。ぜひこの機会に、二つの展覧会を親子でお楽しみください。

特別開館「おやこで!どぼく」

8月23日(火)10:00-17:00(入場は16:30まで)
*こども向けの解説ツアーを11:00、14:00の2回開催
*中学生以下のお子様をお連れの保護者の方は入場料500円(その他の方は通常料金)

同日開催
サントリー美術館 企画展「オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ」
夏休み特別イベント「まるごといちにち こどもびじゅつかん!」

*小・中学生とその保護者は無料
*大人(高校生以上)のみでの入館はできません
お問い合わせ:03-3479-8600(サントリー美術館)
>>サントリー美術館ウェブサイト

Photo: 木奥恵三

トーク「海のトンネル、山のトンネル」を開催

企画展「土木展」の展示「日本一・世界一」では、日本の青函トンネルとスイスのゴッタルドベーストンネルを通して、日本と世界の土木技術の粋を紹介しています。2016年8月11日、青函トンネルからは鉄道建設・運輸施設整備支援機構の秋田勝次、ゴッタルドベーストンネルからはAlpTransit Gotthard社のレンツォ・シモーニを迎え、本展ディレクターの西村 浩、テキストの青野尚子とともにトークを開催しました。

まず、秋田より青函トンネルのプロセスについて紹介がありました。この全長53,850mの海底トンネルは、1923年の構想にはじまり、その後工事期間24年を経て、1988年に在来線開業、2016年には新幹線開業となっています。世界に類を見ない、最長の海底トンネルとしての誕生までの道のりには、水平先進ボーリングや緻密な注入施工など、優れた海底部掘削技術が活かされ、それが国際的な信用を得ることにつながったと語りました。

次に、シモーニよりゴッタルドベーストンネルのプロセスについて紹介がありました。このトンネルは全長57,072mあり、現在世界最長となります。シモーニはプロジェクトの概観、掘削、鉄道技術の応用、試運転のフェーズについて語りました。青函トンネルが海底にあるのに対し、ゴッタルドベーストンネルは山脈に位置するため、土かぶりなどの事故を防ぎつつ作業を行う必要があります。シモーネは、800mの深さのシャフトを掘るほか、アクセストンネルを設えることにより、災害に備えるなどといった技術を語りました。

トークは、西村、青野を交えた質疑応答に移ります。両トンネルの開通の様子や、工事中の作業員が現場に向かうまでの道中、作業中の出水などのアクシデントにどのように対応するかなどが語られ、プロジェクトの達成にむけて勇敢に立ち向かうさまが紹介されました。日本とスイスの土木が、会場でそれぞれの培った技術を分かち合う、またとない機会となりました。

川上典李子による「土木展」レビュー

社会を支える基盤であり、叡智の結集でありながら、普段は意識されることの少ない土木工学や土木構造物の世界。21_21 DESIGN SIGHTで「土木」をテーマにしようと決めた際、ディレクター一同、これこそがデザインの施設でとりあげるべきテーマであると話し合った経緯があります。生活を支える普段は見えない力、自然災害から生活を守る工夫の歴史について、あるいは現場を支える多くの人々の存在、最新の技術や日本の作業作業のきめ細やかさなど、いつも以上に熱い会話となりました。こうした「土木」をより多くの方々に身近に感じてもらえる機会を、建築家の西村 浩氏がみごとに構成してくれています。

会場でまず出会うのは、見えない土木の存在です。1日あたり300万から400万もの人々が行き交い、乗降客数や規模で世界一にも記録されている新宿駅を始め、渋谷駅、東京駅のメカニズムを可視化するべく「解体」を試みた建築家 田中智之氏のドローイング。アーティストのヤマガミユキヒロ氏は、神戸の六甲山からの街なみと隅田川からの風景を絵画と映像の投影による「キャンバス・プロジェクション」で表現しています。日の出から日没、そして再び日の出を迎えるこれらの美しい風景も、土木あってこそ。そう考えると実に感慨深く、静かに移ろっていく風景に見入ってしまいます。


渋谷駅については、ギャラリー2で紹介されている田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科 田村研究室による「土木の行為 つなぐ:渋谷駅(2013)構内模型」も。複数の鉄道が乗り入れ、地下5階、地上3階という駅の複雑な構造は驚かされるばかり。背後の写真は西山芳一氏の撮影。

工事現場で汗を流す人々の姿もフォーカスされています。21_21 DESIGN SIGHTが土木のテーマで伝えたかったひとつに「支える人々の存在」がありましたが、西村氏も同じ想いを持ってくれていました。とりわけダイナミックな作品は、現在の渋谷の工事現場の音が奏でるラベルの「ボレロ」にあわせて、高度経済成長期に収録された映像と現在の渋谷の工事現場の映像が目にできる「土木オーケストラ」(ドローイングアンドマニュアル)。同じく私の心に響いたのは、溶接、舗装、開削等の作業をする人々の写真「土木現場で働く人たち」(株式会社 感電社+菊池茂夫)です。土木建築系総合カルチャーマガジン「BLUE'S MAGAZINE(ブルーズマガジン)」を知ることもできます。「人」という点では、スイス、ゴッタルドベーストンネルの完成の瞬間を記録した映像での、歓喜する人々の姿も心に残りました(「日本一・世界一」のコーナーで紹介)。

ダム建設で人工湖に沈んだものの、水位の低い季節に目にすることのできるコンクリートアーチ橋「タウシュベツ川橋梁」(北海道上土幌町)を始め、30年間土木写真家として活動する西山芳一氏が撮影したトンネルやダムの壮大さと美しさ。それらの写真を堪能できる展示空間(ギャラリー2)には、「つなぐ、ささえる、ほる、ためる」などのキーワードで、アーティストやデザイナーの作品が紹介されています。

砂を盛ったり掘る行為にあわせて等高線が現われる「ダイダラの砂場」(桐山孝司+桒原寿行)、来場者がダムの水をせき止める「土木の行為 ためる」(ヤックル株式会社)、ビニールのピースを積み上げてアーチ構造をつくる「土木の行為 つむ:ライト・アーチ・ボリューム」(403architecture [dajiba])等々、楽しみながら「土木の行為」を知る作品が揃っているのも「土木を身近に感じてほしい」という西村氏の想いゆえのこと。また、マンホールに入る体験ができる作品「人孔(ひとあな)」(設計領域)、左官職人の版築工法を手で触れながら鑑賞できる「土木の行為 つく:山」(公益社団法人 日本左官会議+職人社秀平組)など、実際の素材、工法を知ることのできる醍醐味も。

身体を使いながら鑑賞できるこれらの幅広い展示に、建築の専門家も関心を寄せています。そのひとり、南カリフォルニア建築大学の夏期プログラムで来日した学生を引率した建築史家の禅野靖司氏の言葉を引用しておきたいと思います。「土木の力を身体性とともに示していること、さらには土木を文化的な脈絡で見直し、専門外の人も好奇心を持って学び楽しむことができるフィールドとして紹介していた点が興味深い。安藤忠雄氏の建築の内部でこのテーマがとり上げられていることも、マテリアルと構造の不可分な関係を意識させ、学生たちには刺激的でした」

そして会場終盤、登場するのは骨太のメッセージです。関東大震災の復興事業の一環であり、近代都市東京のために情熱を注いだエンジニアの姿が伝わってくる永代橋設計圖。さらには、東日本大震災の復興事業の現場を、本展企画協力の内藤 廣氏はじめGSデザイン会議のメンバーが三陸を訪ねる「GS三陸視察2015 映像記録作品『GROUNDSCAPE』」(66分)。とてつもなく大きな存在である自然と私たち人間の関係について。「震災という非日常に備えながら日常を支えるのが「土木の哲学」と西村氏。「土木にはまだまだやるべきことがたくさんあり、考えなくてはいけないことが横たわっている」。自然とどう向き合うべきか。さらにはこれからの幸せとは何であるのか。西村氏が本展から発する深い問いです。

再び巨大駅の解体ドローイングに戻り、六甲山からの眺め、隅田川の景色の作品にもう一度向き合ってみました。巨大駅が滞ることなく機能し、こうした街の風景を「美しい」と感じつつ眺められるのも、身体のすみずみに血が巡っていくかのごとくメカニズムが熟考され、そのための技術も活かされているからこそ。また、ダイナミックで力強く、ひとの暮らしを思う実に繊細な配慮とともにあるのが土木の世界です。土木が生活を支えてきた歴史、支えられている現状を意識しながら、この先の生活のために大切なものとは何か、考えを巡らせることの重要性を実感せずにはいられません。

文:川上典李子
写真:木奥恵三

21_21 DESIGN SIGHT企画展 in 台北
「単位展 — あれくらい それくらい どれくらい?」開催中

2016年7月1日より、台北の松山文創園區 五號倉庫にて、21_21 DESIGN SIGHT企画展 in 台北「単位展 — あれくらい それくらい どれくらい?」が開催中です。

旧たばこ工場を改装した会場では、21_21 DESIGN SIGHTで昨春開催した「単位展」を忠実に再現したほか、新たに台北で集めた品々で構成した「1から100のものさし」、台湾のデザイナーらが参加した「みんなのはかり」など、台北展独自の展示も。

会場入口には、21_21 DESIGN SIGHTのコンセプトやこれまでの活動を紹介するコーナーがあり、併設されたショップには、台北展にあわせて制作された新たなオリジナルグッズも加わり、連日多くのお客様で賑わっています。
会期は9月16日まで、会期中無休ですので、台北にお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

Photo courtesy of INCEPTION CULTURAL & CREATIVE Co., Ltd.

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