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2009年2月 (6)

2月14日、「U-Tsu-Wa/うつわ」展オープニングに際して来日した、本展出展作家のジェニファー・リーとエルンスト・ガンペールによるオープニング・クリエイターズ・トーク「大地に向きあい、木と語る――かたちを生みだす想像力」を行いました。

ジェニファー・リーは、彼女が大好きだという、アリゾナやエジプトの砂漠の風景を始め、古代文明の芸術や、彫刻家ウォルター・デ・マリアの作品などを紹介。常に様々なものを見て、それらを自身のフィルターに通すことで、自然を思わせる繊細な色彩や独特のかたちのうつわが生まれるそうです。

ジェニファー・リー


エルンスト・ガンペールは、北イタリアにある、17世紀に作られた古い家を改装した工房の様子や制作プロセスの写真を紹介。また、代表的な作品を挙げ、それらが木の幹のどの部分から切り出されたのかをイラストで解説しました。木工ろくろで木を削り、乾燥の過程で木が自然にねじれ、その木が生きてきた歴史を表す彼のうつわについて語りました。

エルンスト・ガンペール


トーク後のQ&Aでは多くの質問があり、会場は活気に満ちていました。

三宅一生と三作家の出会い

1984年ロンドン。映画『マイフェアレディ』で有名なコヴェント・ガーデンの小さな本屋で、三宅一生は一冊の本を手にとっていました。本屋に入るや否や、目に飛び込んで来たその本の表紙には、凛とした表情の純白の花瓶。「この陶磁器の作者に会いたい」と、すぐに訪れたのが、ロンドン南部アルビオン・ミューズにあるルーシー・リィーの自宅兼工房でした。

ルーシー・リィーのアトリエ
ルーシー・リィーのアトリエ

三宅は、リィーの作品はもちろんのこと、その人柄に心から感動し、「ものづくりとはこういうことだ」と直感したといいます。濃厚なチョコレートケーキとアプリコットケーキ、そしてウィーン育ちのリィーが淹れた薫り高いコーヒーとともに、ひとしきり会話を楽しんだあと、帰り際にサプライズが----なんと、棚に所狭しと並んでいたリィーの作品のうち、三宅が密かに「素晴しいな」と思っていた白いうつわを、新聞紙にくるんでプレゼントされたのです。

ルーシー・リィーからの最初の贈り物
ルーシー・リィーからの最初の贈り物

ジェニファー・リーと三宅一生の出会いは、1989年。スノードン卿が撮影した写真集『ISSEY MIYAKE PERMANENTE』のモデル、長身で笑顔の素敵な女性がリーでした。それから10年後、三宅はパリの街角で、小さな記事に目を留めました。そこには、コンランショップに並べられたエルンスト・ガンペールの木のうつわたち。本、写真、展覧会......三者三様の出会いから25年。一堂に会した127のうつわを前に、その軌跡に思いを巡らせてみては。

三宅一生と3作家の出会いや、彼らの作風の解説を中心とした、21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクター、川上典李子によるギャラリーツアーが行われます。


「U-Tsu-Wa/うつわ」展の見どころ vol.2 へ

美しいと感動した経験について話してほしいと言われることがあります。そんな時にまず思い出されるのは、ルーシー・リィーさんの名前としごとです。

今から20数年前に、ロンドンの書店で偶然手にとった陶磁器の本。それを見て心を動かされた私は、さっそくルーシーさんの制作スタジオ兼自宅を訪ねることになりました。彼女の人柄と作品の数々に触れて、その時私は「つくる、とはこういうものだ」と直観して心も身体もリフレッシュし、勇気づけられたことを覚えています。そして、その夢も醒めきらないうちに、日本で「ルゥーシー・リィー展」を企画・実現し(1989年東京と大阪で開催)、大きな反響をよぶことができたのです。

さて、21_21 DESIGN SIGHTの企画による「U-Tsu-Wa/うつわ」展。ここでは20世紀の伝統の中に未来形の創造の宇宙を発芽させたルーシー・リィーさんを中心に、その水脈をうけ継いで明日の陶磁器づくりに新しい方向性をあたえているジェニファー・リーさん、木から生命を見つけ出すエルンスト・ガンペールさん、という二人の作家を配して、多様なうつわたちの豊潤な造形世界が展開されます。土・石・木、自然素材と向き合い、美しい形を削り出していくしごとは、自身の内面を深く厳しく掘り下げる作業に通じています。そこから、私たちの生活と文化をうるおす清新な創造の伏流水が湧き出してくることでしょう。

三宅一生

ルーシー・リィー(左)と三宅一生(右)
ルーシー・リィー(左)と三宅一生(右)

ルーシー・リィー、ジェニファー・リー、エルンスト・ガンペール。三人のアーティストのつくる〈うつわ〉には、生活文化としてのデザインの可能性が、実に豊かに示されている。

とりわけ、ルーシー・リーの作品は、一つ一つが前世紀の百年を陶芸に賭けて生き抜いた彼女の人生の結晶のようだ。モダニズム造形美の極みともいうべき、優雅に研ぎ澄まされたフォルム。美しさと同時に温かみを感じさせる、微妙でデリケートな陶器の素材感。あの白に輝く器たちの透明感は一体何なのかと、彼女の作品を目にするたび、不思議な感動を味わう。

展覧会では、彼女らのみずみずしい感性がより直接的に伝わるような空間演出を考えた。展示室内に水盤をつくり、その水の上に作品を浮かべる。流れる水という空白を介して、その静と動の狭間で、美しいうつわと対峙するという展示構成だ。訪れる人が、作品を通じて、それをつくった作家の心を感じられるような、展覧会になればと思う。

安藤忠雄

会場風景
Photo: Hiroshi Iwasaki
ヴィジュアルディレクション: 杉浦康平

──「うつわ」は「空(うつ)輪」とも、「宇宙輪」とも書けますね──。
最初の打ちあわせで一生さんがつぶやいたこの言葉が、今回のヴィジュアルデザインのヒントになった。

器(うつわ)は空(くう)。からっぽなもの。その中に飲みものや食べものを満たすと、「空」なる器が「実」に変わる。それを飲み・食べると、「空」である人間の体内に「実」なるエネルギーが充ちる。器はそのまろやかな形で、「空」と「実」の対極を、苦もなく巧みに溶けあわせる。 三人三様。土を練り、形をつくり、倒木を削り、ときにひびわれを誘いだす。それぞれに味わい深い差異を見せる三人のうつわ宇宙を、「空」なる紙面のひろがりに招きいれた。ページを繰る指先のリズムとともに、器自身が静かに舞い踊る。

豊かな伝統的技法と現代感覚を結びつけた器たちの多彩な表情を俯瞰し・見上げて、宇宙遊泳に似た動きを誕生させる。岩崎寬さんの感性豊かなカメラアイと、森山明子さんの情感あふれるテキストが、艶やかなうつわ宇宙誕生の支えとなった。

杉浦康平