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佐藤雅彦 (2)

皆さんは属性と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?

展覧会が始まって最初の週末に、佐藤雅彦によるオープニングトークがミッドタウンホールにて行われました。

第一部は「属性カード」という今回のトークのために特別に印刷した情報整理カードを使ったレクチャー。佐藤が30年来、一生に一度はやってみたかったとい う「属性カード」を使って「我々は一体何者なのか」を解き明かす試みを行いました。トーク参加者ひとりひとりに配られたカードは、質問に沿った解答欄と切 取線がついて、穴も空いている特別仕様。
壇上の佐藤と一緒に、参加者はそれぞれ質問に回答していきます。「男性か女性か」「参院選で投票したか」「iPhoneを持っているか」など全部で12問の回答が終わると、カードは回収。その場で集計が始まりました。
ビデオカメラや黒板を使い、佐藤自ら詳細に集計現場をレポート。会場全体が何かが始まる楽しげな予感に包まれていました。

集計の間、トークは第二部に進みます。
「(本展覧会を)ただ楽しむだけではなく、その奥にあるものを見て欲しい、それについて話したい。そして皆さんの周りにも、その本質を伝道して欲しい」という佐藤。
まずは今回の展覧会のキーワードでもある「属性」についての説明と、展覧会発足のエピソードから始まりました。「属性」というテーマを扱うきっかけになっ た作品「指紋の池」の初期スケッチや、展覧会タイトルが実は途中で変更になった経緯など紹介。それから作品の見方も交えながら、属性をめぐる考察についてひもといていきます。

トーク終了の時間が近づくと、先ほど集計が完了した「属性カード」の結果を発表。例えば日本全体のiPhoneシェアが4.9%に対して、会場内での結果 は42.7%!Macシェアが日本4.99%に対して、会場内は60.3%!次々と飛び出す意外な結果に、会場は大きく盛り上がりました。




展覧会を作っている間、毎日悩みつつも充実した日々を送ったという佐藤。「失敗も含めて、意味のある展覧会をやりたかった」と語ります。世の中に溢れている自己実現や自分の存在意義、などといったもっともらしい言葉に縛られずに「展覧会を通じて自己、個性という型から自由になり、生き生きと過ごして欲しい」と参加者にメッセージを送りました。

属性に無頓着な自分、それに執着する社会。

この展覧会のテーマは、「属性」という、日常ではあまり使われない言葉です。「属性」の意味を辞書に問えば、最初に、

【属性】ぞくせい
1. その本体が備えている固有の性質・特徴 (『大辞林』より)

という簡明な説明が与えられます。例えば、あなたの身体的属性には、身長・体重・皮膚や髪の色・血液型・性別・年齢・体躯・顔つき・声など、限りない項目が挙げられるでしょう。また、社会的属性には、名前を始めとして国籍・住所・職業・所属・地位・人間関係などが挙げられます。その他、癖や持ち物なども、あなたの属性に含まれます。



あなたより、あなたのことを知っている社会

静脈認証や虹彩認証などの最新の生体認証技術は、従来、判別が不可能だった身体的属性をも正確に取得することを可能にしました。一方、人は相変わらず、普通の状態では、自分の姿や声さえも客観的に捉えることはできません。社会の方は、その取得環境と保存環境を日に日に整えつつあり、近い将来、場面によっては、社会の方があなたより、あなたの事を知っているという状況も生まれかねません。そう考えると、取得した属性データをうまく使えば、個人個人に細かく対応したサービスや堅固なセキュリティの確保という方向も見えてきますが、悪用すれば、過度な個人の監視や犯罪という方向も容易に想像できます。
この展覧会では、現在、あなたの属性が、あなたの知らないうちに、社会にどのように扱われているのか、さらには、あなたも意識していない、あなたのどんな属性がこれから社会に認識されていくのかを、作品を通じて知ることができます。そして、単なる技術展示にとどまらず、作品化することによって、属性の未来を可能性だけでなく危険性も含めて鑑賞してもらうことを目的のひとつとしています。



あなたの属性は、本当にあなたのものか。

さらに、辞書には「属性」の意味として、興味深い項目が次のように示されています。

【属性】ぞくせい
2. それを否定すれば事物の存在そのものも否定されてしまうような性質 (『大辞林』より)

例えば、自分の紹介に使う名刺も、その人にとっては名前や所属が載っている属性のひとつです。もし、自分の名刺を目の前で折られたり破られたりしたら、どんな気持ちになるでしょうか。まるで自分を否定されたかのように感じ、怒りさえ生まれてくるはずです。また、何かの間違いで、自分の籍や名前が無くなっていたとしたら、自分の存在が無いかのように社会は扱うはずですし、自分自身も自分の存在について希薄さを感じたり、逆にある種の自由さすら感じることが予想されます。
この展覧会では、自分の属性である声・指紋・筆跡・鏡像・視線・記憶などをモチーフにした作品を展示しています。そこでは、この2番目の意味での属性が、私たちが今まで得ることができなかった感情を引き起こします。さらには、自分にとって、自分とはわざわざ気にするような重要な存在ではなかったという事柄や、自分をとりまく世界と自分との関係も分かってきます。

この展覧会のテーマである「属性」と作品群を通じて、人間と社会の未来がどうなるのか、人間と世界の在り方は本来どうであるのかを来場者ひとりひとりに感じ取ってもらい、そして多くの疑問を持ち帰ってもらい、その疑問をかざしつつ、これからの自分と社会を見つめていってほしいと、私は考えています。

(補記)
本展覧会はあなたの身長や指紋や筆跡などの属性が展示作品に取り込まれ、作品化されることによって生まれる表象を鑑賞していただきたいために、そのような個人情報をその場で提供していただくことになります。(もちろん、希望者に限りますが)
しかし、この展覧会の『属性の今を考えることによって、人間の未来・社会の未来を考える』という主旨に基づき、敢えてそのような展示を行っていることを是非ご理解いただきたく思います。

展覧会ディレクター 佐藤雅彦