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2012年3月 (14)

現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。


二人の才能のダイアローグをヴィジュアライズしてくれた展覧会


── ペンさんの写真との出会いを教えてください。

ブリット・サルヴェセン(以下、サルヴェセン):
確か1987年だったと思います。ペンの回顧展がニューヨークのMoMAから巡回して世界を巡っていたのをロンドンで見ました。その数年後90年代には、私はペンから作品アーカイブを寄贈されたシカゴ美術館で仕事をしており、そこでコリン・ウェスターベックが企画したペンの回顧展を見る機会がありました。

── ペンさんの写真についてどう思いますか?

サルヴェセン:彼の写真は写真史の中で非常に重要なポジションを占めると思う。何故なら、写真というメディアはさまざまな目的で使われていますが、ファッション、静物、文学、プライベートな作品......、彼はそのすべてのジャンルに及んだ作品づくりをして、いずれの作品もアート作品のレベルに達している。写真のインパクトと対象の細部に焦点をあてる彼の作品は、今の時代にすごく重要なメッセージを持っていると思います。

── 展覧会の感想を聞かせてください。

サルヴェセン:二人のダイアローグはアーティスト同士の関係の中でもとてもユニークなものだと思います。彼らはすごく個人的なパーソナリティの部分で互いに影響を与え合っている。それは、相手が打つ球を見極めて打ち返し、時間をかけてお互いをより偉大な到達点に押し上げる、とても優秀なテニスプレーヤーのよう。お互いに尊敬し合っている関係をすごくリアルに感じることができる展覧会でした。

── ペンさんの写真から学んだことは?

サルヴェセン:私はペンにはお会いしたことがありません。しかし、若い研究者だった私にペンは写真を通してたくさんのことを教えてくれました。道に落ちているタバコやゴミが、たちまち美しいものに変わるということ。それは私にとって驚くべき発見でした。

── ペンさんの写真を1枚手に入れられるとしたら何にしますか?

サルヴェセン:難しいわね(笑)。やはり象徴的な「Harlequin Dress」(1950)でしょうか。あの写真は一度見たら忘れられない強さがあります。

── 最近のお仕事を教えてください。

サルヴェセン:LACMAでは、エルズワース・ケリーの写真と映画についての展覧会が現在開催中です。今後の予定としては、2012年6月にシャロン・ロックハート、2012年10月にはアーヴィング・ペンにも非常に影響を受けたロバート・メイプルソープ、そして2013年の秋にはメキシコの映像作家のガブリエル・フィゲロアの展示を予定しています。

(聞き手:上條桂子)



ブリット・サルヴェセン Britt Salvesen

ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)キュレーター、ウォーリス・アネンバーグ写真・プリント・ドローイング部門長
コートールド美術学校文学修士号(1991年)、シカゴ大学博士号(1997年)。シカゴ美術館の学術出版物のアソシエイト・エディター(1994-2002年)、ミルウォーキー美術館のプリント・ドローイング・写真担当のアソシエイトキュレーター(2002-04年)を経て、アリゾナ大学のクリエイティブ・フォトグラフィー・センター(CCP)のディレクターおよびチーフキュレーターを務める。2009年10月より現職。
これまでの展覧会に、『Harry Callahan: The Photographer at Work(2006年)』『New Topographics(2009年)』『Catherine Opie: Figure and Landscape(2010年)』『Ellsworth Kelly: Prints and Paintings(2012年)』等。今後、シャロン・ロックハート、ケイティ・グラナン、チャーリー・ホワイト、ロバート・メープルソープ、ジョン・ディヴォラ等の展覧会を手掛ける予定の他、レナード・アンド・マージョリー・ヴァーノンのコレクションの大規模な展覧会も予定している。



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21_21 DESIGN SIGHTで2010年に開催した「REALITY LAB―再生・再創造」展(2010年11月16日-12月26日)、展覧会関連冊子『チビコト』の売上金を、全額「そらぷちキッズキャンプ」と「スマイル アフリカ プロジェクト」に寄付いたしました。 寄付の取り組みにご協力いただきました皆様に、心より御礼を申し上げます。

売上総数:480冊 (期間:2011年2月1日-2012年3月15日)
売上総額:47,980円
(内訳:そらぷちキッズキャンプ 23,990円、スマイル アフリカ プロジェクト 23,990円)

* そらぷちキッズキャンプとは、病気とたたかう子どもたちのための自然体験施設実現に向けたプロジェクトです。 * スマイル アフリカ プロジェクトとは、途上国の子どもたちにシューズを寄贈するプロジェクトです。

現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。

シンプルでパワフルなアートの力を実現した、二人の希有なコラボレーション

── 展覧会のご感想をお聞かせください。ご自身の作品が実際に動いているのをご覧になっていかがでしたか。

マイケル・クロフォード(以下、クロフォード):
本当に感動しました。こんなに素晴らしい展覧会は見たことがありません。私は30年間風刺画家として仕事をしてきましたが、自分の作品は常に紙の上の静止画です。それが初めて大きなスクリーンで動いているのを見て、大変興奮しています。動画にしてくださったパスカルさんは素晴らしいですね。

── マイケルさんは、本展のアニメーション作品の原画ドローイングをお描きになられましたが、作品の制作プロセスを教えてください。

クロフォード:最初に北村みどりさんから、方向性をきちんとディレクションしていただきました。スケッチなどを見せていただき、一生さんとペンさんのコラボレーションのプロセスがとても良くわかったので、それから3ヶ月は一人でひたすらドローイングを描きました。そして、でき上がったドローイングをパスカルさんに渡し、しばらくしたら彼からDVDが届いた。それを見た時は驚きましたね。私の描いたスケッチに命を吹き込まれたような感じで、非常に生き生きと動いていた。私たちは一度も同じ部屋で仕事をしていないというのにです。

── ペンさんと一生さんもお会いすることなく、コラボレーションをしました。

クロフォード:そうですね。今回の展覧会の素晴らしさは、まさにそこにあると思います。ペンさんと一生さんが「一緒に」作ったものではないというところに面白みがあると思います。

── プロジェクションの展示はいかがでしたか。

クロフォード:昨日、一緒に来日した子どもたちと見たのですが、皆で感動しました。イメージそのものも美しいのですが、大ききさやシークエンスの間などが素晴らしかった。一生さんの服もそうだけれど、ペンさんの写真は「スカルプチャー」。私にとってこれらの作品は、服ではなく彫刻なのです。
私自身も絵を描くからわかるのですが、アートの世界でペンさんと一生さんのようなコラボレーションが出来るケースはなかなかないと思います。ペンさんは、一生さんの作品から強烈なインスピレーションを受けられて、シンプルでパワフルなアートの力を実現されていると感じました。

── 最後に、クロフォードさんの最近のお仕事をお聞かせください。

クロフォード:私の風刺漫画に関しては、出来るだけシンプルに面白く作るように心がけています。「ニューヨーカー」のドローイングも、なるべくひと言でおかしみを出せるように描いています。シンプルにすればするほど良い作品に仕上がるし、それが私の求めていることなのです。
ペインティングは、もう20~30年描いていて時期によってテーマは変わります。ひとつのテーマをある程度突き詰めて描くと、また次のテーマに挑戦したくなるのです。現在は、アメリカ合衆国の地図を中心に仕事をしています。アメリカの地図に少しアイロニーを込めて、人々が良く知っているアメリカの地図とは、少し違った体験をしてもらうペインティングです。

(聞き手:上條桂子)

Michael Crawford
Photo: Carolita Johnson

マイケル・クロフォード Michael Crawford

カートゥーニスト
1945年アメリカニューヨーク州オスウェーゴ生まれ。69年トロント大学を卒業、英文学専攻。70年代後半にイラストや風刺漫画を売り始めるまで、教職や建設業に多く携わる。81年に『ニューヨーカー』に最初の風刺漫画を売って以来、定期的に寄稿を続けている。その他、『ニューヨーク・ タイムズ』、『ニューヨーク・マガジン』、『スパイ』、『パリ・マッチ』、『ハーバード・マガジン』、『アトランティック』、『フォーブズ』、 『エンクワイアラー』、『グルメ』など、多数の出版物に作品が掲載されている。また、『The New Yorker Book of Baseball Cartoons』のボブ・マンコフ氏の共同編集者としても活躍している。ニューヨーク市、ボストン市、及び、ニューヨーク州ハドソン市のグループ展では、絵画作品が展示されてきた。
http://www.michaelcrawford.org

マイケル・クロフォードによる「Irving Penn and Issey Miyake: Visual Dialogue」のためのドローイングより
Copyright © 2010 by Michael Crawford

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常に新しい表現に挑戦する、素晴らしい才能を持つ二人


── ペンさんの写真についてどう思われますか。

シャロン・サダコ・タケダ(以下、タケダ):
私はペンのすべての作品に通じているわけではありませんが、イッセイの衣服を撮影した写真には、驚きがやむことがありません。ペンが自らの芸術性をもって、クリエイティブで詩的なイッセイの非凡な才能のエッセンスを見事に捉える方法には、目を見張ります。その写真は、まさに時間を超えた芸術作品です。

── 展覧会の感想をお聞かせください。

タケダ:二人の偉大な才能が互いに影響し合ってつくられたクリエイティブな作品を、様々なメディアを通して見られて、素晴しかったです。巨大なプロジェクションには、わくわくしたわ!インスタレーションもとてもダイナミックで、特に、全体を通して良く考えられた写真のグルーピングと、写真が出ては消えて行くタイミングがとても良かったです。

── ペンの作品から学んだことがあったら教えてください。

タケダ:ペンのポートレートや静物写真の隣でイッセイの衣服を撮影した写真を見ると、ペンの内的でクリエイティブな声への探究心が刺激されます。そして、常に新しいことに挑戦し、尊敬する作家の仕事からインスピレーションを得る喜びの重要性について考えさせられました。

── ペンの写真を1枚手に入れられるとしたら何にしますか?

タケダ:なかなか難しいけれど、ひとつだけ選ぶとしたら、ヴォーグのために撮影した奥様のリサの写真かしら。ファッション写真として美しくてエレガントなだけでなく、まるで将来結婚する女性に宛てた心を打つラブレターのようですから。

── 最近のお仕事を教えてください。

タケダ:最近、北米デビューとなる「Rodarte: Fra Angelico Collection」という展覧会をキュレーションしました。これは、著名なアメリカ人デザイナー、KateとLaura Mulleavyがロダルテのためにデザインした、9種のドレスのインスタレーションです。また、私が担当した「Fashoning Fashon: European Dress in Detail, 1700-1915」が今年、ベルリンとパリで始まります。現在は、2014年にオープン予定の「Reigning Men: From the Macaroni to the Metrosexual」という、18世紀から現在までの男性服を集めた展覧会を企画しています。

(聞き手:上條桂子)



シャロン・サダコ・タケダ Sharon Sadako Takeda

ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)シニアキュレーター、コスチューム・テキスタイル部門長
LACMAでこれまでに開催した主な展覧会は『When Art Became Fashion: Kosode in Edo-Period Japan』、『Miracles and Mischief: Noh and Kyōgen Theater』、『Breaking the Mode: Contemporary Fashion from the Los Angeles County Museum of Art』、『Fashioning Fashion: European Dress in Detail, 1700 - 1915』等。米国服飾協会より、服飾展の優秀さを称えるリチャード・マーティン賞および2度のミリア・ダヴェンポート出版賞を受賞。2002-03年、UCLAの世界芸術文化学部で客員教授を務め、現在はフランスのリヨンにある、染織史の専門家のための組織、古代織物国際研究所の理事を務めている。

Fashioning Fashion: European Dress in Detail
『Fashioning Fashion: European Dress in Detail, 1700 - 1915』

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決して作為的ではない、ストレートな表現


── アーヴィング・ペンの写真との出会いを教えて下さい。

八木 保(以下、八木):
ペンの写真は雑誌でよく見ていましたが、手にとってよく眺めたのは、1986年に出たマイルス・デイヴィスの「TUTU」のレコードジャケットですね。アートディレクションを手掛けた、石岡瑛子さんからいただいた時です。

── ペンの写真について、どのようにお考えですか?

八木:作為的ではなく、自然のままの美しさをそのままに表現していると、思います。

── 何か特別なエピソードがありましたら教えてください。

八木:エスプリ退社後、1991年に、サンフランシスコで独立した時、ニコラス・キャラウェイ出版から連絡が入って、はじめて頼まれた仕事が、アーヴィング・ペンの写真集『PASSAGE』の日本語版のレイアウトの仕事でした。本ができあがり、サンプルが届くのを待っていると、印刷所から、本紙校正紙一式が木のパレットに梱包され送られてきたのです。本になる前の3面付裏表の校正紙は、すごく衝撃的でした。

── ペンの写真から学んだこと、影響を受けたことがありましたら教えて下さい。

八木:足していくのではなくて、引いて表現すること。
過剰に表現するのではなく、そのままをストレートに表現すること。

── 八木さんの最近のご活動についてお聞かせ下さい。

八木:2011年11月に、『八木 保の選択眼』がADP出版から出版されました。
現在、L.A.郊外にあるリベラルアートのポモナ・カレッジのサイン計画を進行しています。



八木 保 Tamotsu Yagi

アートディレクター
東京のデザイン事務所で18年のキャリアを積んだのち、1984年に米国サンフランシスコのアパレルメーカー、エスプリ社にアートディレクターとして招かれる。広告からカタログ、パッケージ、商品のブランディングやストアディスプレイまで、八木が手掛けたエスプリの象徴的なビジュアル表現は「エスプリ・グラフィック・ルック」として世界中から評価される。1986年にAIGA(American Institute of Graphic Arts/アメリカのグラフィックデザイン協会)のデザインリーダーシップ賞を受賞、1990年にはAGI(Alliance Graphique International)にメンバーとして迎えられる。翌1991年に独立、サンフランシスコにTamotsu Yagi Designを設立する。1994年にはベネトン社のためにデザインした「TRIBU(トリブ)」の香水ボトルのデザインでクリオ賞を受賞。また、翌年には100点を超える八木のデザインワークがサンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)の永久コレクションに選ばれ、1995年の同美術館の開館を記念して展示が行われた。

八木 保の選択眼
「八木 保の選択眼」

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2012年3月9日に行われた、鈴木理策(写真家)、鷹野隆大(写真家)と原田 環(文筆編集出版家)によるトーク「写真家にとって、ペンが遺したものとは何か」の動画をご覧頂けます。

※本動画の配信は2012年4月26日を以て終了とさせていただきます。


9月16日から開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展。本展関連プログラムのために来日したマーク・ホルボーンのインタビューをSankei Express on the first Sundayにてご紹介いただきました。

参考記事:【動画】トーク「アーヴィング・ペンと三宅一生」

Sankei Express on the first Sunday
Sankei Express on the first Sunday

2012年3月3日に行われた、坂 茂(建築家)によるトーク「『アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue』展+ポンピドゥー・センター・メス+災害支援活動」の動画をご覧頂けます。


現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。

現実と虚構を行き来する、夢あるクリエイション

──佐藤さんは、ペンさんの写真をどのようにご覧になりましたか?

佐藤和子(以下、佐藤):
私はどちらかというと、アーヴィング・ペンさんの写真単体というよりは三宅さんの作品を通じてペンさんの写真を知りました。今回も展示されていますが、当時のヴィジュアルは本当に強烈なイメージでした。三宅さんが持っている心象風景とペンさんが持っている心象風景が重なり合って、違う次元のクリエイションになっていたように思います。

──具体的にはどのようなことでしょう?

佐藤:見ている人がヴィジュアルに自分を投影させて、どんどん変身していけるのです。モデルが服を着ている写真ではあるんですが、その中に物語があって、それが次々に変化していく。見る方によって頭に思い描く物語は違うと思うのですが、それぞれの物語というのは、その人にとっての変身願望につながっているのだと思います。だから見る人も面白い。誰もが心に持っている変身願望を満たしてくれるような展覧会って珍しいと思います。

──すごく面白い視点ですね。ある種女性的な視点なのかもしれません。

佐藤:そうかもしれませんね(笑)。一生さんの服も、ペンさんの写真も、ジャンルも時代も超えている、時空を超えているのですね。すごい人たちが出合う時には、単に倍になるのではなく、2乗3乗の効果が出てくるのだと思います。二人とも自由にやっているでしょ?それがまたすごい。

──そうですね。お互いに言葉を交わさずに作品を作っています。

佐藤:もうひとつお二人のクリエイションを見ていて思ったのは、現実と虚構の絶妙なバランスです。デザインというものは現実感がなくてはならない。ですが、現実感だけだと人間は惹かれないんですよ。嘘というと言葉が悪いですが、虚構の世界というのがあって、人はそこに夢を持つことができる。三宅さんの服というのは、ものすごく大きな夢を見せてくれるのに、現実に戻ったらその服を着られるのですね。現実世界でその服を着ると、着ている自分はやっぱり夢の中を漂っているのですね。ペンさんは、その一生さんの夢の部分を最大限に引き出してまったく新しいものにしている。そのさじ加減が本当に素晴らしいと思います。

──では最後に、佐藤さんが最近手がけられたお仕事を教えてください。

佐藤:昨年末に日伊協会創立70周年・イタリア統一150周年記念で『イタリア文化事典』というものが出版されまして。私は「創る」-(デザイン)という項目を監修、執筆させていただきました。こちらの本に携わって、歴史や文化を語る上でまだまだ「デザイン」という分野の定義が確立されていないことを痛感し、これからきちんと語っていかなければと思いました。

(聞き手:上條桂子)



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佐藤和子 Kazuko Sato

ジャーナリスト
女子美術大学図案科卒。東京芸術大学大学院からイタリア政府奨学生として、ブレラ美術大学に留学。60年代初めの<イタリアデザイン黄金期>から、70年代<ノン・デザイン時代>、80年代の<ポストデザイン時代>を、デザインの壁を越えてミラノで活躍。イタリア・ジャーナリスト協会員。多くの日伊文化展を手掛ける。著書「アルキミア」「時を生きるイタリアデザイン」等。金沢美術工芸大学客員教授。女子美術大学客員教授。独自の「近代デザイン論」展開中。

「イタリア文化事典」

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Gallery 2
会場風景(撮影:吉村昌也)

6画面の大型プロジェクションでアーヴィング・ペンの写真を投影しているギャラリー2の展示で使用されている椅子は、本展の会場構成を担当した坂 茂が、フィンランドを代表するインテリアメーカー アルテックのためにデザインした10 UNIT SYSTEM。

その名に示されるように、10点のL字ユニットから構成されています。会場では椅子や背もたれのないスツールとして使用していますが、このほかにもテーブルのフレーム等、いろいろなかたちに組み立てることができます。簡単に組立および解体が可能でもあり、さまざまな組みあわせによって、独自の空間プランをつくり出せます。

また、使用されている素材はUPM ProFi という再生プラスチックと再生紙の混合材です。これはペットボトルなどに使用される粘着ラベルの製造過程でうまれる端材を原料としており、このうちリサイクルされた素材が占める割合はおよそ60%。プラスチックと木の繊維の特徴を兼ね備え、耐久性に優れ湿度や紫外線による影響も受けにくいため、屋内外を問わず幅広い場面で使用することができます。さらに、素材を再度製造工程でリサイクルすることや有害物質を出さず焼却することもでき、製品のライフサイクルを通して環境に負荷が少ない方法が実現されています。

www.artek.fi

10 UNIT SYSTEM

「安藤忠雄/仕事学のすすめ〜自ら仕事を創造せよ〜」

NHK教育テレビ(Eテレ)
全4回 午後22:25 〜 22:50 毎週水曜日

第1回:3月7日放送、3月14日再放送
第2回:3月14日放送、3月21日再放送
第3回:3月21日放送、3月28日再放送
第4回:3月28日放送、4月2日、5日再放送

番組ホームページ

建築家の安藤忠雄が「混迷の時代にこそいかにして自ら仕事を創造するか」ということについて語り、その仕事を振り返る全4回に渡る番組です。
第3回(3月21日放送、3月28日再放送)の中で安藤は、21_21 DESIGN SIGHTの着想から完成までのプロセスを通して、三宅一生との出逢いを振り返り、そのやりとりから生まれた想いを語ります。

是非ご覧下さい。

2012年2月25日に行われた、柏木 博(デザイン評論家)と清水早苗(ジャーナリスト)によるトーク「アーヴィング・ペン:写真の視覚」の動画をご覧頂けます。


Gallery 2会場風景(撮影:吉村昌也)

本展の見どころの一つに、ギャラリー2での写真の大型プロジェクションがあります。31mの長い壁面を生かし、6画面を連動させて画像を投影しています。このようなかたちでアーヴィング・ペンの写真が展示されることは初めてです。
今回の展示においては、キヤノンの最新プロジェクターを使用して実現しました。

使用されているプロジェクターは「WUX4000」。
ヨーロッパでは一昨年発表され、国内での大規模な使用は初めてという、最新モデルです。

最大の特徴として、WUXGA対応反射型液晶パネル(LCOS)が挙げられます。
16:10のWUXGA(1,920×1,200ドット)の反射型液晶「LCOS(Liquid Crystal On Silicon)パネル」の採用により、スライドのようになめらかな描写性能と高解像度化を実現しています。今回の展示では、6画面相当のフルHD映像を高精細に映写しています。

また、レンズが交換可能で、幅広い設置環境に対応できます。
「上下左右電動レンズシフト機能」や「電動ズーム・フォーカス機能」により、リモコンを使用しての調整が可能です。本展では、プロジェクターを天井から吊って設置していますが、このため設置後の微調整を行うことができます。実際には6画面を連動させるため、緻密な調整が重ねられています。

迫力の映像表現を、是非会場でお楽しみください。

http://cweb.canon.jp/projector/lineup/wux4000/index.html

WUX4000

現在開催中の「アーヴィング・ペンと三宅一生 Visual Dialogue」展にあわせ、各界をリードするクリエーターの方々に、ペンの写真の魅力について語っていただきます。


シュルレアリスムを感じさせる、ペンの写真


──藤塚さんはアーヴィング・ペンさんの写真についてどう思われていましたか?

藤塚光政(以下、藤塚):
僕は他の写真家が撮っている写真にはあまり興味がなくてね(笑)。それは、僕自身が、アートとして写真を創造するというよりもジャーナリストとして写真を撮っているから、誰かの写真を作品として見るという感覚が希薄だったんですよ。アーヴィング・ペンの写真を知ったのは、三宅一生さんを通してなんです。

──一生さんとのお付き合いは長くていらっしゃいますよね?

藤塚:1970年代末か'80年位からかな。僕は当時、ファッションにもまったく興味がなかった。Tシャツとジーンズがあればいいって感じだから(笑)。一生さんとの出会いは、「インテリア」という雑誌の仕事でショーを撮りに行ったのがきっかけ。モデルがポーズとるところばかりを撮るカメラマンの中で、僕は服だけではなく空間全体を撮っていた。僕はそれが普通だと思っていたけど。その後、一生さんから東京コレクションを撮って欲しいって言われた。

僕は、撮影するとき、ファッションというよりは一生さんの発想が面白くてね。あの人は単なるファッションデザイナーじゃないですよ、サイエンティスト。服を見ていても、薄膜構造とか流体力学が想起されるし、その上、民俗学や解剖学まで心得てるんじゃないかと思うほどなんだ。ショーの音楽と照明も素晴らしかった。

──では、一生さんを通してペンさんの写真をご覧になって、どのように感じられましたか?

藤塚:彼はシュルレアリストなんだよ。今回の展示や本にもあったけど、チョコレートがべったりついた口とか、蛙の足筋肉とカタツムリ。僕はこういう写真は撮らないけど、シュルレアリスムの作品を見るのは好きで。いわゆる「キレイは汚い、汚いはキレイ」という美の感覚。美しいものの対極に汚いものがあるのではなく、色に汚い色なんてない、そんな感覚。まさにシュルレアリスムだと思うよ。晩年のBedside Lampも良かった。

──展覧会をご覧いただいた感想はいかがでしたか?

藤塚:非常にうまい展示だよね。ペンさんは、背景を極限まで省略して写真に凝縮している。完璧な白バックで抽象化するシュルレアリストの世界を感じた。巨大画面のプロジェクションもよかったけど、ユーモラスなアニメーションもよかったなあ。すべてが調和していて、ディレクターの北村みどりさんの一生さんを支える力を感じたなぁ。

──では、最後に藤塚さんの最近のお仕事をお聞かせください。

藤塚:建築家の仙田満さんの40年もの仕事の集大成を1000ページにまとめた『遊環構造BOOK SENDA MAN 1000』(美術出版社、デザイン:秋田 寛)という書籍を作りました。仙田さんとは長くて、中の写真は95%僕が撮影してます。本は厚さ70㎜、重さ2kgあるよ。

(聞き手:上條桂子)



Mitsumasa Fujitsuka
撮影:KAWABE Akinobu

藤塚光政 Mitsumasa Fujitsuka

写真家
1939年東京・芝に生れる。1961年東京写真短期大学卒業。1965年フリーに。1987年日本インテリアデザイナー協会賞受賞。1961年~1985年、月刊『ジャパン・インテリア・デザイン』撮影。1982年~2006年、月刊『室内』表紙を撮影。1986年『記憶の建築 毛綱毅曠作品集』 文・毛綱毅曠。1987年『意地の都市住宅Ⅰ・Ⅱ』 文・中原洋。1991年『現代の職人』 文・石山修武。1993年『不知詠人』 文・毛綱毅曠。1995年『建築リフル』全10巻 文・隈研吾。2002年『身近なテクノロジー』写真・文とも。2004年『藤森照信特選美術館三昧』 文・藤森照信。2007年『建築家・五十嵐正』 文・植田実。2008年『安藤忠雄の建築3』。2009 年『BRIDGE』 文・大野美代子。2009年『21世紀の建築魂』 文・藤森照信。2009 年写真展『倉俣史朗・to be free』。2011年『木造仮設住宅群』 文・芳賀沼整。2011年『SENDAMAN・1000』 文・仙田満

『SENDAMAN・1000』

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