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「土木展」

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ディレクター

ディレクターズ・メッセージ

みなさん、「土木」と聞いて何を思い浮かべますか?
おそらく、馴染みのあるキャストたちは、道路・トンネル・鉄道・河川・公園といったところで、その中でも一番の花形が橋。それらの存在を裏方で支えるのが、上下水道や電気通信、測量技術など。そして、ダムは"悪役の似合う大物俳優"といったところでしょうか? こんなに多彩なキャストたちが、厳しくも豊かな自然と向き合いながら高度なネットワークを形成してみなさんの暮らしをしっかりと支えている全体像が土木なのです。ただ、土木が提供する日常の価値というものは、あまりにも当たり前過ぎて、みなさんになかなか意識してもらえません。それどころか、年度末に増加する道路工事にはクレームの嵐を呼び、災害発生時には土木の敗北がニュースの話題になるように、あまりイメージのよくない非常時にしか話題に上がらないことが、実は土木の悩みだったりするのです。

今回の土木展では、そんな縁の下の力持ち的な"見えない土木"を、楽しく美しくヴィジュアライズしたいと思います。どこまでも真面目で堅実な土木と、全く専門外の作家たちとのコラボレーションによる本格的な展覧会は、これまでにない土木業界初の試みで、彼らがどんな見方を提示してくれるのか、来館される方々がどのような想いを持ち帰ってくれるのかと、私自身とても楽しみです。

明治以降、日本は多くの先進技術を西欧から学び、近代化の道を歩んできました。特に戦後の高度成長期には、先達の熱意と努力によって、世界に誇るインフラ整備をあっという間に実現し、現在のような何不自由のない生活を獲得するに至りました。ただ一方で、ひたすら便利さをもたらした文明は、生きていくための人間の本能をむしろ退化させているようにも感じます。1964年東京オリンピックと、間近に迫る2020年東京オリンピックとの違いに象徴されるように、社会の価値観も大きく変わろうとしています。まさに今、改めて、これからの幸せとは何かと問い直す時期が訪れているように私には思えるのです。

2011年の東日本大震災からはや5年が過ぎました。復興道半ばの東北の未来を少しでも応援しようと、この土木展の準備を進める最中、今度は九州の熊本を震源とした最大震度7という熊本地震が発生しました。道路・鉄道・上下水道といった土木インフラはいとも簡単に破壊され、再び、多くの市民が"普通の日常"を失いました。まるで巨大な生き物のような圧倒的な大地のエネルギーを前にして、どうすることもできない人間の無力さに、またしても唖然とする自分がいました。

人間の叡智を遥かに越える自然と、我々はどう向き合うべきか。

近年の2つの大震災は、文明以前の哲学への回帰を求めているように思えます。この土木展が、みなさん自身と土木という存在の距離を縮め、見えにくい日常を、改めて自分事として見つめ直すきっかけとなることを心から期待しています。

西村 浩

プロフィール

西村 浩 Hiroshi Nishimura

建築家/デザイナー/クリエイティブディレクター
株式会社ワークヴィジョンズ 代表取締役/株式会社リノベリング 取締役
マチノシゴトバCOTOCO215 代表

1967年佐賀県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、1999年にワークヴィジョンズ一級建築士事務所を設立。土木出身ながら建築の世界で独立し、現在は、都市再生戦略の立案からはじまり、建築・リノベーション・土木分野の企画・設計に加えて、まちづくりのディレクションからコワーキングスペースの運営までを意欲的に実践する。日本建築学会賞(作品)、土木学会デザイン賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞、公共建築賞 他多数受賞。2009年に竣工した、北海道岩見沢市の「岩見沢複合駅舎」は、2009年度グッドデザイン賞大賞を受賞。

左上:岩見沢複合駅舎(撮影:小川重雄)
左下:佐賀わいわい!!コンテナ
右:長崎水辺の森公園橋梁群 オランダ坂橋