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企画展「ゴミうんち展」
開催概要

contents

ディレクター

ゴミはどこで生まれてどこへ行くのか。うんちはトイレで流した後、どこへ行くのか。ゴミ箱に入れ、トイレで流した後のことなど知ったこっちゃない。それどころかさっきまで身近にあり、さっきまで身体の中にあったものが身体から離れた途端、突然汚いものになってしまう。現代の「ゴミ」や「うんち」というこのような概念は、なぜ生まれたのか。そもそも「ゴミ」や「うんち」という概念で、社会のインフラがかたちづくられてしまったことが良かったのか。

日本において江戸時代までは物や排泄物の多くが循環していた。近代化によりあらゆる事が縦割りになり、そして資本主義で便利になった社会は、物事の本質から人間を遠ざけているようにも見える。このような状況が続いて、地球環境は急速に悪化していることは誰もがご存知であろう。ただ、46億年の地球の歴史を顧みると、とてつもなく大きな変化が繰り返され、そこで起きてきた奇跡的な現象が現代の科学技術により詳らかになってくると、そこにこれから人類が為すべきこと、歩むべき方向のヒントが潜んでいるように感じられる。以前、21_21 DESIGN SIGHTにて開催した企画展「water」や「コメ展」でご一緒した竹村眞一さんに廃棄物の話を持ちかけると、瞬く間にうんちの話へと繋がり、必然的であるかのようにこの展覧会の開催とタイトルが、ほぼ同時に決まった。

「循環」が難しいテーマであることは重々承知の上で、常に前向きに物事を思考する竹村さんと多くのクリエイターの方々にも参加いただき、何ができるのかを探っている。どこまでのことができるのかは、正直やってみないとわからない。ただ環境問題は待った無しの状態であることは間違いないので、この企画はデザイン施設として避けて通れないと思った。難しいテーマをいかに面白くできるか。そこにもデザインが試される。

佐藤 卓

佐藤 卓

佐藤 卓 Taku Satoh

グラフィックデザイナー、21_21 DESIGN SIGHT ディレクター・館長。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインをはじめ、ポスターなどのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHK Eテレ「デザインあ」「デザインあ neo」総合指導、著書に『塑する思考』(新潮社)、『マークの本』(紀伊國屋書店)、『Just Enough Design』(Chronicle Books)など。JAGDA(日本グラフィックデザイン協会)会長。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章他受賞。

この星の歴史は、生命による地球OSのアップデートの歴史だ。
27億年前のシアノバクテリアによる光合成革命は、海底の地下資源に依存していたこの星の生命系に、太陽からの無尽蔵のエネルギーを利用する道を開いた「宇宙エネルギー革命」だった。いま人類はそれをソーラーパネルで不器用ながらも模倣して、石炭や石油という過去の光合成革命の遺産を食いつぶす暮らしから卒業しようとしている。
同様に私たちは、この星の「循環OS」をアップデートしうるだろうか?

自然界にはゴミもうんちも存在しない。誰かの排泄物や遺体は、ほかの誰かの資源(食べもの)としてリサイクルされる。とはいえ、この見事な循環システムも、初めから整っていたわけではない。
私たちが呼吸する酸素も、シアノバクテリアが光合成で吐きだす厄介な廃棄物だった。だが、それを有効活用する技術革新で、生命のエネルギー経済は何十倍にもアップグレードされた。現在の「酸素に満ち溢れた地球」は決してあたりまえの姿ではなく、生命による惑星大改造(テラフォーミング)の結果なのだ。
この星を「緑の惑星」に変えた陸上植物の進化も、当初は巨木が現代のプラスチックごみのように積み上がって「化石燃料」となった(ゆえに「石炭紀」と呼ばれる)。だが、やがてそれを分解する菌類が進化し、ミミズやシロアリなど多様な地球のエッセンシャルワーカーとの連携で、木や草が「土」となって循環する仕組みがつくられた。この生命による「地球のOS更新」の物語の続きを、今度は私たちが書く番だ。

人類は地球OSを変えるほどの影響力をもった唯一、初の生物ではない。だが、地球規模のOS改変を行いつつあることを「現在進行形」で認識し、その行く末を変える自由をもつ初の地球生命だ。
自らが創出した人工知能(AI)との共進化で、この星の生命系に内在する「未開の知性」を再発見してゆく旅。自らの内外に潜む多様なアクターとのパートナーシップで、人間もあらためて人「間」へと進化しつつ、地球の循環経済をアップデートしてゆく数十年をこれから始める。

イノベーションはつねに「危機の時代」になされてきた。地球の歴史でも「酸素」や「樹木」などの廃棄物が溜まりに溜まって、仕方なくそれを循環利用する技術革新が生まれた。人類史においても、農業革命や都市革命、科学革命など「〜革命」はいつも気候変動で追い詰められた時だった。
うんちをpooploopして100万都市を運行した「江戸のエコ」も、江戸初期の高度成長による資源枯渇と環境危機へのクリエイティブな適応(=V字回復)だった。それを今度は地球規模でやる──そして、その準備はようやく整いつつある。
人間の愚かさ、未熟さを嘆くだけの、「人間中心主義」の裏返しのような「人間原罪論」の半世紀はそろそろ卒業しよう。地球OSのアップデートの歴史に連なり、その更新に参加する。多様な生命による地球共創史の文脈へと人間を解放する──。「ゴミうんち展」は、そのためのステップボードだ。

竹村眞一

竹村眞一

竹村眞一 Shinichi Takemura

京都芸術大学教授、NPO法人ELP(Earth Literacy Program)代表、「触れる地球」SPHERE開発者。 人類学的な視点から地球環境に関する研究・啓発活動を行い、環境教育デジタル地球儀「触れる地球 / SPHERE」を企画開発(経産省グッドデザイン賞・金賞、キッズデザイン賞最優秀・内閣総理大臣賞)。東日本大震災後、政府の「復興構想会議」専門委員。国連アドバイザーとして『国連防災白書』デジタル版監修(2012〜2019)。東京都環境審議会委員。21_21 DESIGN SIGHT では企画展「water」「コメ展」の企画に関わる。著書に『地球の目線』(PHP新書)、『宇宙樹』(慶應大学出版会;高校の国語教科書に収録)など。