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企画展「スープはいのち」
開催概要

contents

ディレクター

スープは包む、いのちを包む –衣食住の出発点–

「スープ」という言葉から、あなたは何を思い浮かべますか?

私には記憶に残るスープ体験があります。2003年、ロシアや東欧を巡った旅の中で、唯一の温かな食事といえばスープでした。キッチンのあるユースホステルでは、市場で手に入れた野菜を鍋に入れるだけでつくるその一杯が、"最小限の食"として旅を支える存在となりました。

その旅で、私は一枚の写真に出会いました。1900年にルーマニアで撮影された、地べたに座り、大きな器を手にスープを口に運ぶ農民たちの姿です。そこには、豊かさでも貧しさでもなく、「生きることの場を共にする」人々の眼差しがありました。

スープは、人と人が共にする、共在の場と時間を結んできました。そして、私たちはもっと根源的なスープを共有しています。

生まれる前の私たちは母体という"住"、
胞衣(えな/胎膜・胎盤など)という"衣"、
そして羊水という"食"に包まれていました。

羊水の塩分濃度は、人が「美味しい」と感じるスープとほぼ同じ0.9%。うま味成分であるグルタミン酸も豊富に含まれています。つまり私たちは、お腹の中にいるときから、すでに"美味しいスープに包まれていた"のです。

衣食住は、私たちの外側と内側を包む営み。本展は、スープをその出発点として、身体感覚を通して衣食住を見つめ直す試みです。

湯気の向こうに、あなたには何が見えますか?衣食住––––すなわち生きることが、すべての人にとって喜びと希望に満ちた世界であることを願って。

遠山夏未

遠山夏未

遠山夏未 Natsumi Toyama

デザイナー。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。ISSEY MIYAKEで衣服のデザインをする傍ら、「衣」と「住」は身体を外側から包み、「食」は身体を内側から包むものであると考え、最小限の食として"スープ"に着目し、身体空間をデザインする活動を始める。著書に『ポタージュ –野菜たっぷり家族のスープ–』(池田書店、2014年)。