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「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」レポート
第5回 参加作家 イルマ・ブーム、太田 佳代子にきく

2013年6月21日より開催中の「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」。参加作家・企業のインタビューなどを通して、展覧会の魅力やプロセスを連載でお伝えします。

「スカイダイアリー」は、ふたつの展示作品からなるプロジェクト名だ。ひとつは藤原 大がカラーハントした365日分の空のカラーチップのインスタレーション。もうひとつは、それらの空の色をコンセプトにつくった本である。

「スカイダイアリー」/Photo: 木奥恵三

このプロジェクトは展覧会企画の当初から藤原の頭の中にあり、本をつくること、デザインをイルマ・ブーム、編集を太田 佳代子という役割分担も固まっていた。ふたりから快諾も得ていたのだが、多忙なブームのスケジュールが確定し、来日・滞在したのが5月23〜29日。これにあわせてロッテルダムを拠点としていた太田も合流し、集中して本のデザインを行なうことになった。

ブームの来日を前に、藤原は協力企業である株式会社 竹尾(以下、竹尾) の見本帖本店で本のための紙を選んだ。持参したカラーチップに照合しながらの作業で、当初は竹尾があつかうすべての種類の紙からの選択も考えた。だが、メールのやりとりをするなかで、ブームの意見もあり、最終的には「NTラシャ」という単一の紙から空の色に合致するものが選ばれた。

《空のいろ・日記帳》/Photo: 木奥恵三

NTラシャは、1949年に開発された日本を代表するファインペーパー(高級印刷用紙)だ。コットンを含む温かな風合いと高級感が羅紗(らしゃ)織に似ているところから命名された。115色というカラーバリエーションの豊富さも大きな特徴で人気を得ている。

さて、5月26日、オランダ王国大使館 大使公邸で「イルマ・ブーム 来日記念トーク」が行われた。トークでは太田佳代子が聞き手となり、ブームが手がけてきた本のデザインやエピソードが語られた。

2013年5月26日開催の「イルマ・ブーム カラーハンティング展での新作発表のための来日記念トーク」(主催:21_21 DESIGN SIGHT/会場:オランダ王国大使館 大使公邸)の様子

ブームのブックデザインは、紙やタイポグラフィの選択、コンテンツそのものに関係づける色遣い、小口の処理・ミシン線やエンボスの使用といった仕様のすべてが、機能性と美しさをあわせもつ。トランクに詰め持参したそれぞれの本を、手元のカメラでプロジェクターに映し出しながらのブームの話はウィットに富み、オープンな人柄を滲ませつつ「私は本の限界を探っているのです」とデザイナーとしての信念を語る、素晴らしいものだった。
インタビューはトーク終了後に行われた。太田 佳代子と藤原 大にも同席してもらい、本づくりについて訊いた。

──3人はどのように知り合ったのですか?

藤原:2010年、アムステルダムの熱帯美術館で「カラー・イン・タイム」というイベントがあり、招かれてトークをした時におふたりに初めて会いました。

ブーム:大のトークはカラーハンティングについてでした。今まで知らなかった色の話で、私は新しい友だちを見つけたと思ったんです。

太田:私はロッテルダムにいたのですが、イルマから電話で呼び出され、すぐに電車に乗ってアムステルダムに向かいました。カフェでお会いした藤原さんが、同じプレゼンテーションをしてくださったので感激したのを憶えています。

藤原:おふたりとも、クリエイティブで柔らかい印象で、何か一緒にできたらと思いました。

藤原 大による「スカイダイアリー」カラーハンティングの様子/Photo: (株)DAIFUJIWARA

──その時に空の色の構想があったということですか?

藤原:空の色をとろうと思い、着手したのは2011年の震災の後です。自分が生きているのが、地球上に広がるひとつの空の下であるということを意識するうちに、空の色は最も根源的な色ではないかと思いました。朝から午前中にかけての空の色を毎日とっているうちに、ダイアリーをつくるのがいいかなと思って太田さんに相談したんです。

太田:すぐにイルマにメールを書きました。

──「空のダイアリー」というコンセプトですね?

ブーム:メモリーブックとして考えています。大の365日の記録をかたちにし、それを使う人それぞれの記録や思いが重ねられるようにできたらと思います。最初は、365日分の特別な色を扱う本になるのかと思っていました。でもそうはならなかった。実際は24色を使うことになります。

藤原:NTラシャという紙から、僕がカラーハントした色を選んでいったら24色だったということです。出張などで作業ができなかった日は、白としました。

ブーム:365色ではなく24色。数が少ないのは問題ではあるけれども、逆に面白くもできるはずです。大が24色を選んだことには理由があるのですから、それをどのように彼の考えに近づけて表現するか、その解を見つけるのが私の仕事です。

太田:色という情熱の対象を共有しているおふたりの本を成功させる。それが私の役割ですね。今回は紙のクオリティが重要なポイントとなっていますし、日本の印刷や製本技術を活かしたいというのがイルマの希望です。

《空のいろ・日記帳》/Photo: 木奥恵三

インタビューの後、ブームはデザイン案をブラッシュアップする作業を続け、完成した本が会場に展示されている。《空のいろ・日記帳》である。1ヶ月ずつ冊子にまとめられた12冊が蛇腹のように綴じられた体裁で、通常は奥付に入れるすべてのデータが背に刷られている。高度な技術が要求される製本は美篶堂が手がけた。24色の紙にはそれぞれ決められた位置にタブが付けられ、小口となる。表紙にはカラーチップをはさむためのスリットが切られている──使う人が主体的にこの本を変化させていくことで、特別な日記帳になるようにというイルマ・ブームの思いが込められている。(了)

構成・文:
カワイイファクトリー|原田 環+中山真理(クリエイティブ エディターズ ユニット)

イルマ・ブーム:アムステルダムを拠点に活動するグラフィックデザイナ−。1991年にIrma Boom Officeを設立。ニューヨーク近代美術館、パリのポンピドゥセンター、アムステルダム大学などに作品がコレクションされている。2013年4月、改装を終えグランドオープンしたアムステルダム国立美術館のロゴマークを手がけている。

おおたかよこ:展覧会オーガナイザー、編集者。2012年まで10年間、オランダの建築設計組織OMAのシンクタンク AMOで展覧会の企画運営と書籍編集に携わる。レム・コールハース、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『Project Japan: Metabolism Talks...』(Taschen 2011、ブックデザインはイルマ・ブーム。日本語版は平凡社 2012)の編集など多数。2014年にはヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館のコミッショナーを務める。