Loading...

contents

川上典李子のデザインコラム Vol.1
各国デザインミュージアムのいま 前編

「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」企画協力でジャーナリストの川上典李子によるデザインコラム。本展のために行ったリサーチから、各国のデザインミュージアムの現状や日本のデザインミュージアムの未来像を、連載でお伝えします。

デザインを感じることができると同時に、生活との関係についても考える機会をつくる施設。未来に伝えるべきものを収集、アーカイブし、それら一つひとつの意味に触れる場となると同時に、今後の生活、創造活動に結びつける活動がなされる場......世界には様々なデザインミュージアムがあります。

デザインミュージアムとして計画された施設はもちろん、工芸館として長く活動してきた施設がデザインミュージアムと名を新たにしたものもあります。ニューヨーク近代美術館やポンピドゥー・センター国立近代美術館のように、デザイン部門の収蔵、研究、展示が充実した近代美術館も忘れてはなりません。

日本における総合的なデザインミュージアムの実現にむけて考える本展にあたり、まずは各国のデザインミュージアムの現状に目を向けてみたいと思います。今日までの活動、それらの活動をふまえて感じている課題については本展会場でも紹介していますが、今回のコラムでは、その取材時にうかがったことばを抜粋しながら、お伝えしましょう。

ヴィクトリア・アンド・アルバートミュージアム

日常の品々を収集し紹介するデザインミュージアムとして、世界でも最も歴史のある施設は、ヴィクトリア・アンド・アルバートミュージアム(V&A)。1851年にロンドンで開催された第一回万国博覧会のために収集された品々と国立デザイン学校のコレクションを軸として翌1852年、デザインを学ぶ学生を対象とする産業博物館として開館、さらに1957年、広く市民を対象とする装飾美術館として現在の場所に開館しました。

The John Madejski Garden © Victoria and Albert Museum

現在はイギリスにおける文化・メディア・スポーツ省(DCMS)から財政支援を受けた政府外公共機関(NDPB)として、「2011年慈善法」に基づく登録除外チャリティの位置づけとなっています。すなわち政府と対等な関係で、英国首相より任命された評議会によって管理されています。

収蔵品の多さを誇るV&A。2013年3月31日時点での総数は200万点を超える2,241,718点。内訳はオブジェや芸術作品1,182,876点のほか、書籍および定期刊行物は1,058,031点、手稿・写本、書簡などの文書が811点です。これらのなかで常設展示にふさわしい「展示品コレクション(Display Collections)」は226,747点。「参考資料コレクション(Reference Collections)」と呼ばれる書物、絵画、印刷物、写真および文書は2,014,971点。後者は劣化を防ぐため閲覧は館内究室内に限り許可され、展示も短期間に限ってなされています。

The 20th Century gallery © Victoria and Albert Museum

膨大なコレクションを背景とする活動で目ざしているのは、「来館する全ての人々の創造性を刺激すること」とV&Aのサラ・アルモンド氏。「これこそが私たちが行うあらゆる活動を統合する最も重要なテーマです。また、他のミュージアムでも最大の課題となっているのは、幅広い来館者の関心をひきつけ、人々が展示内容を理解できるためにどう手助けをするか、ではないでしょうか。ミュージアムを後にする際、来館者は自身が力づけられたと感じるとともに、暮らしのなかでデザインが果たす役割を理解できていなければなりません」

「ミュージアムは自分自身や世界に対して異なる見方を与えるきっかけとなります。優れたミュージアムであれば、人々に『問う力』を、授けることでしょう」とアルモンド氏。

ヴィトラ・デザイン・ミュージアム

企業が母体となってアーカイブを行い、意欲的な企画も実現している好例として、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムを挙げておきます。1989年、フランク・ゲーリーの建築設計で誕生。2014年には開館25周年を記念するコレクションの大規模展覧会も予定されています。現在のコレクション数は家具、プロダクト、照明器具などの約7,000点。デザインミュージアムの役割をどうとらえているのかについて、同館のマテオ・クライス氏にうかがいました。

© Vitra Design Museum, photo: Julien Lanoo

「私たちのミュージアムでは、デザインを今日のありのままの姿として認識しています。すなわち、アートと自然科学とテクノロジーの間を橋渡しするインターフェイスという立場でさまざまな問いかけを発する学際的な領域であると考えています。デザインの定義は根本的に変化してきており、工業デザインに限らず、芸術的な営みや職人の仕事などの広い分野も含むようになってきています。我々の役割は、デザインの多彩な様相を探求して幅広い人々に伝えるリサーチャーで橋渡し役、まとめ役、研究者、提唱者であると考えています」

私立で運営されている施設ならではの課題もあります。重要なのは財政の安定を維持すること。「公平性を損なうことなく、あらゆる活動において最高の基準を確実に満たしながら、パートナーや共同プロデューサーなどを通して望ましい資金調達も探っています」

「デザインミュージアムにはデザイン活動を文化領域のひとつとして確立するという役割があります。私たちの最大の関心事は、デザインミュージアムという仕事を実践しながら、その新しい領域の足跡を残す最前線に立つことなのです。つまりリスクを負ってでも新たな道を開拓し、 世界の優れた美術館に巡回すべき展覧会を、今後も長年に渡って生み出し続ける成功例となることです」

© Vitra Design Museum, Juergen Hans

「デザインとはグローバルな現象であり、デザインミュージアムにもグローバルな視点が必要」とクライス氏。「グローバル・ネットワークをふまえた世界規模の計画を掲げることが大切です。共同リサーチを行える体制を構築し、国際的な巡回展とノウハウを共有すれば、新たなデザインミュージアムの計画も成功することでしょう」

「と同時に、デザインミュージアムが日本に誕生すれば、柳宗理氏や倉俣史朗氏などから今日に至るデザイナーの業績や全仕事、デザインに注力する日本企業の活動をとり上げる、またとない機会が生まれます。日本のデザインミュージアムのアジェンダには、日本のデザインを保護して守る任務とともに、日本のデザインの歩みを日本はもちろん国際的な文脈の中で整理されることが大切になってくると思います」(後編へ続く)

文:川上典李子

>>各国デザインミュージアムのいま 後編へ