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好奇心の力。
−21_21 DESIGN SIGHT館長 佐藤 卓のメッセージ

2020年4月30日 10:0021_21 DESIGN SIGHT,デザイン,佐藤 卓

はじめに、この度の新型コロナウイルス感染症に罹患された方々とご家族の皆様に謹んでお見舞い申し上げますとともに、医療従事者の方々の多大なるご尽力に、深く感謝申し上げます。

21_21 DESIGN SIGHTは、2007年に開館して以来、安藤忠雄さんの設計による光に満ちた空間の中で、デザインの可能性を探りながら様々な展覧会を開催してまいりました。チョコレートから始まり、水、人、骨、米、アート、建築、土木、野生、器、雑貨、民藝、虫など、テーマは多岐に渡ります。それは、人の営み全てにデザインは欠かせないものであること。そして、あらゆる事象にデザインという概念を投げ込むことによって、デザインとは何かを問うという、言葉にはできない好奇心の力によるところが大きいように思います。

21_21 DESIGN SIGHTは、美術館やデザイン施設の運営に関わったことがない、ある意味素人の集まりでスタートし、手探りで試行錯誤を続けてまいりました。当館が他にはない個性を持っているとしたら、それはここに起因するのかもしれません。そして開館する準備段階から現在も同様に、定期的にディレクターズミーティングというものを開催しています。展覧会のテーマなども、基本的にこの場で検討されます。このミーティングは、21_21 DESIGN SIGHTの創立者でディレクターでもある三宅一生さん、ディレクターの深澤直人さんと私、アソシエイトディレクターの川上典李子さん、そして当館のスタッフと共に少人数で行っています。この会議の時間がとても面白く刺激的なので、この機会に普段表に出さない舞台裏を、少しお話してみたいと思います。

ミーティング中の発言はいつも、各々の仕事のジャンルには一切こだわらず、まるで脳のシナプスが飛び交うがごとく、ありとあらゆる方向に廻ります。環境問題、経済、注目のアーティスト、医療、人の心理、最先端技術、遊び、教育、福祉など、思いつくアイデアを自由に出し合うので、話がどこへ行くのか常に分かりません。頭の中がグルングルンに回る感じです。そして話が外れて、それぞれの楽しい近況報告の時間に入り、気がつくと1時間が経過していることなど、よくあることです。しかし、この時間が大変貴重なのです。この自由で立場を超えた垣根のないやり取りが、面白いアイデアに繋がったりします。あるアイデアをきっかけに別のアイデアに飛躍することもよくあります。自分の意見を論破しようとする人など誰もいません。お互いを尊重し合いながら進む意見交換は、リズミカルで気持ちがいいとさえ思えます。そして候補がいくつか出ると、まるで発酵させるかのように、先のミーティングまで寝かせたりします。しばらくして、また新たなテーマと比べたりしながら、自然と浮かび上がってくるテーマを選択していきます。あくまで実に感覚的なのです。このような場は、私もいろいろな経験を積んできましたが、ここにしかありません。まるで誰の足跡もないところを一歩一歩進んでいるような感覚です。どうなるかは誰にも分からないけれども、この先へ行ってみようという、まるで森の中を探検しているような気分です。だからワクワクドキドキする。ただし、何の保証もないのに、「絶対いい!」という理由なき確信のようなものを、全員が共有できています。アイデアの閃光を待ちながら進むこの感じは、直接会ってやり取りするからこそ生まれるものであり、皮肉にも現在の日々がこの価値に改めて気づかせてくれました。

21_21 DESIGN SIGHTという場の特徴は、とかく理屈という「意識」が優先する現代社会にあって、珍しく「感覚」というものを最優先しているところにあるのかもしれません。そもそも好奇心は、感覚からくる心の動きですから。当館では、人に内在するこの感覚というものを、今後も大切にしていきたいと考えています。

まだまだ先の見えない状態ではありますが、我々はこの厳しい経験から学ぶべきことを推考し、社会のためにできることは何かを、引き続き模索し続けてまいります。これからも、21_21 DESIGN SIGHTをどうぞよろしくお願い申し上げます。

21_21 DESIGN SIGHT館長 佐藤 卓